悠冴紀

2016年7月25日

ヒグラシ幻想曲

Image by Saeki Haruka       .

さざめく草木にいざなわれ
 

 
ヒグラシが奏でる不思議なメロディー
 

 
聖徳太子も聴いていた
 

 
夏の夜の幻想曲
 

 

 
暗闇に天井が溶けだし
 

 
満天の星空が視界に開ける
 

 

 
モノトーンの部屋から
 

 
コバルトブルーの宇宙へ
 

 

 
重力に縛られた身体から抜け出し
 

 
わたしは毎夜旅に出掛ける
 

 
銀河の泡を掻き分け
 

 
宇宙のヒモを探し歩く
 

 

 
今日こそは見つけられるだろうか
 

 
卑弥呼が見たかもしれない宇宙のヒモを
 

 
明日こそは証明できるだろうか
 

 
思考の迷宮に陥ってしまったあの友たちから
 

 
恐れを拭い去るかもしれない宇宙のヒモを
 

 

 
今こそ届け
 

 
彼らの元へ
 

 
夏の夜のヒグラシ幻想曲
 

 
銀河の旅へのイントロダクション
 

 

 
影を忘れて重力を解き
 

 
宇宙のヒモを探して泳ぐ
 

 

 
私は毎夜
 

 
時空の旅人


 
※2003年(当時26歳)のときの作品。
 

 

 
 詩中の『宇宙のヒモ』というのは、宇宙物理学において、誕生したばかりの宇宙に出来たある種の“欠陥”を指す言葉です。(:最近では名称の似た『超ひも理論』や『M理論』の方が注目を集めがちですし、確かな証拠を得るのが困難な宇宙物理学の世界では、過去の理論が次々に覆されたり新たな解釈を加えられたりして、どれもこれもが不確かな仮説と言ってしまえばそれまでなので、私の詩作品のインスピレーションの源となった以下の『ひも理論』の概略も、あくまで私がこの詩を書いた時点では主流だった仮説の一つ、ということで、ご了承ください m(_ _)m)
 

 

 
 宇宙は、エネルギーが凝縮され混沌としたミクロの状態から始まり、みるみる膨張して、秩序だったマクロ宇宙へ成長してきたと言われています。ですが、その際に莫大なエネルギーが失われるため、膨張すればするほどに、宇宙は冷えていく。
 

 
 そして、ちょうど水が冷えると氷に変化するのと同様に、宇宙の状態も変化する。
 

 

 
 水からの変化を遂げた氷の結晶と言えば、必ず傷や割れ目などの欠陥(筋? ヒビ?)があります。それなら当然、宇宙にも、状態を変化させた時点で何らかの欠陥が生じているはず。面状のものもあれば点状のものもあり、様々な形態が考えられますが、それらの欠陥の中でも特に線状のものを指す言葉が、『宇宙ひも』です。(※ 物質を構成する最小単位のものは ひも状である、というのが、ひも理論の基本ですが、私が詩作品に盛り込んだこの宇宙ひもの構想は、上述のインフレーション宇宙論にからめることで副産物的に登場してきた理論の方です。)
 

 

 
 では、何故その『宇宙ひも』というのが、理論物理学の分野で かくも注目されるようになったのか ── ?
 

 
 『宇宙ひも』には、それ自体の質量が非常に大きいために重力効果をもたらし、ヒモの動いたあとに向かって物質が引き寄せられた結果、現在のような宇宙の大構造が形成されたのではないかとする説や、ヒモが作り出すループが物質を引き付け“たね”になった結果、銀河が出来上がったのではないかとする説や、更には、ヒモが振動した際に放出する電磁波によって大きな泡状の構造がつくられ、それが発展して銀河になったのではないかとする説など、様々な可能性が考えられるからです。
 

 
 いわば、この世のあらゆる事物の原点であり、宇宙に関する多くの謎を解明する重要な鍵、と言えるわけです。
 

 

 
 そんな宇宙のヒモを見つけて証明するという本詩中の表現は、当時、他ならぬ自分たち自身の思い込み(=臆病さや劣等意識、依存心など)によって物事を必要以上に複雑にしてしまい、己の迷宮に陥ってしまっていた旧友たちを、各々の謎と苦悶から解き放って安心させ、我に返らせることができればいいのに、という私の願望の表れなのです。 (←ちょうど同時期に、親しくしていた複数の友人たちが、自分を見失いボロボロに壊れていく姿を無力に見送ってきたもので……w)
 

 

 
 ちなみに、私は当時、どこぞの収容所か北○鮮のようなドス黒~い生家に 二度と永久に戻らずに済むよう、身辺整理のため一時的に故郷の田舎に帰っていました。( ← ようするに、失踪・亡命の準備をするための最後の帰省だった A^_^;) 家庭の中の人間模様はサイコでヤ○ザで偏狭でドロドロしていても、窓の外には、幼い頃から変わらず私の感性を育み、正気を繋ぐことを可能にしてくれた美しい大自然が広がっていました。広大な宇宙の一部であることを思い出させてくれる そんな大自然のもと、久方ぶりに聴くカナカナというヒグラシの声に癒されながら、夢見心地な気分に浸る一方で、成長とともに変わり果てていった旧友たちのことを密かに気に留めていたのが、この詩に繋がったんでしょうね。

一見マイナスの事柄から何かが生み出される結果に繋がった、という意味では、この詩作品の誕生経緯それ自体も、「欠陥」が銀河誕生の基になったという宇宙ひもの理論と、どこか共通するものがあると思います (^_^;) というか、この詩だけに限らず小説も含めて、私の作品という作品は、失敗や喪失、別離や過ちなど、人生においては傷や欠陥としか言えないような体験をもとに、創作物という生産的な形に転じ昇華したものが大半です。一見前向きで明るい内容に仕上げているつもりでも、読み手からしばしば「作品の背後に言い知れない哀愁や翳が感じられる」とか言われるのは、そのせいかもしれません A^_^;
 

 

 

 
 あ、ところで、作中に登場してくる『聖徳太子』とか『卑弥呼』とかいう有名どころの名前に、違和感を覚えた人も多いのではないでしょうか? この部分は実は、そう特に深い意味はないというか、ヒグラシの声って、なんか「和」な感じがするので、自然にその名が浮かんだだけなんです m(_ _)m 人の世は大いに変化し、文明がどんどん進化・発展(あるいは退化???)していっても、このヒグラシたちの声だけは、古の時代から変わらず美しく、むしろ人工物だらけで環境破壊の進みすぎた現代よりも情緒深かっただろうな……なんて思い馳せながら。( ← 更に余談ですが、歴史的人物の中でも特にこの二人が気になったのは、漫画家 山岸涼子さんの影響かもしれません A^_^; 『日出処天子』に衝撃を受けて以来、ず~っとお気に入りの漫画家ですから。聖人視されがちな太子や卑弥呼といった有名どころの人物を、極めて異端な解釈で人間臭~く描写した斬新な世界観は、一度読んだら頭に焼き付いて離れません ( ゚Д゚)!)



 
※追記:このページの最初にUPしたザっつい画像は、恥ずかしながら私が中高生時代に美術の授業の課題で作成した切り絵(貼り絵???)に、宇宙画像の背景を加えたものです(^_^;) あらかじめ(とは言え、無計画に)水に垂らした絵の具で染色したいくつかの画用紙を、切り刻んで貼り合わせ、何かの形に仕上げていくという課題でした。他にもいっぱい似たような下手クソな小作品があるので、またそのうちに挿絵としてUPするかもしれません。辛抱強くお付き合いくださいませ m(_ _)m 笑

注)私の言葉を一部でも引用・転載する場合は、必ず「悠冴紀著『◎◎(←ブログ記事のタイトルや作品名)』より」と明記してください。自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たります!

#友達 #詩 #自然

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