悠冴紀

2019年6月8日

詩『鮫々のように』

最終更新: 2023年2月24日

暗く 冷たい 水の中で
 
独り静かに佇んでいたい
 
冷ややかな眼差しを持つ

あの鮫々のように
 

 

 
笑うことなく
 
馴れ合うことなく
 
誰も寄り付かないほどの深みに溺れて……
 

 

 
差し伸べる手など 必要ない
 
人々が救いと信じるものが

私には死だ
 

 
現に私は

日に日に崩れ 朽ち果てて
 
元在る力すら見失ってしまった
 

 
己の本質に見合わぬ生温かいところへ
 
無理やりこの身を引上げてしまったからだ
 

 
一体どの時点から道を誤ったのか
 
ずいぶん浅いところに迷い込んでしまった
 
なんと虚しく乾いた 浅はかな世界……
 

 
これでは泳ぐことすら

ままならない
 

 
キリと身を引き締める冷たい水底で
 
私は充分に幸せだった
 

 
明るい水面に浮上するのが幸せなどと
 
一体誰が決めたのだ
 

陽射しが痛い
 
眩しすぎる
 
ここは私の居場所ではない
 

 
息ができないんだ
 
息が……!
 

 
戻りたい

今一度

あの鮫々に似た在り方に


 
泳ぎ出さねばならない

今一度
 
何の思索も節度もない

快楽至上主義の龍宮城から
 
感覚を研ぎ澄ます 激動の大海原へ
 

 
沈み込んでいく

あの懐かしい水底へ
 

独りになりたい
 
この背と同じ暗さの海で


 
沈んでいきたい

あの懐かしい水底へ

そう
 
誰の手も届かぬほど
 
深くて 重く 充実した
 
この身に相応しいダークブルーの世界へ――


 


 

 
※ 2013年10月頃の作品。
 


 
注)この作品を一部でも引用・転載する場合は、

 必ず「悠冴紀作『鮫々のように』より」と明記してください。
 

 
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