悠冴紀
2017年12月15日
最終更新: 2023年2月24日
蒼白い雪を被った鋭い針葉樹林を
私は手探りで駆けていく
どこから来たのか
どこに向かっていたのか
時折わからなくなる自分がいる
今はそれでも
走るほかない
凍てついた樹海の奥から
狼たちの遠吠えが聞こえてくる
あれは血に飢えた冬の捕食者
かつての私に 似た奴らだ
目印もない雪原の上
私には君だけが道標だった
君の雪山に語りかけ
木霊する声の反響で
己の立ち位置を知ることができた
身動きできない君に代わって
私は大地を駆け回り
この身で捉えた世界を伝えた
ひょうびょう
黄金色に暮れていく縹渺とした冬空に
君と歩んだ月日を重ね見る
粉々に舞い散る冷厳とした氷雪に
君からの戒めを顧みる
あれが友情でなく信頼でもなかったなら
私たちの関係は一体何だったのか……
君が先だったか
私が先だったか
霧に閉ざされた大気の中
どちらかが視力を失って以来
足を引っ張り合うだけの関係に堕ちてしまった
私は君にとって何だったのか……
もはや私には知る手だてもない
確かなのは 一つだけ
四半世紀もの間
君は私の道標だった
君に代わる存在など
後にも先にも見出せはしない
君は今も道標
私たちは二人とも みなしご
樹海を彷徨う氷の孤児
せめて二人の軌跡だけは汚れぬよう
私は君との記憶を凍結した
氷の木々から樹液を搾り
琥珀のごとく固めて埋めた
地中深くに掘った穴で
君の欠片を留めていく
溶けない氷をそのままに
褪せることない記憶の中で――
※2013年2月作
作中の『君』は、以前UPした「天狼~ハティ」や「蛹」「蝶」「君に贈るもの」「SPHINX」「幽霊」といった作品群の『君』と同じ人物、幼馴染の親友Sのことです。
この親友のことを書いた作品は、これからもまだまだ無数に登場してきますので、辛抱強くお付き合いくださいませ m(_ _)m A^_^;) 何しろ、私にとっては、これまで出会った中で最も影響力の強かった人物 ── 私を今の私たらしめた最重要人物ですから。その関係がすっかり過去となった今でも尚、良くも悪くも。
※下の曲は私がこの詩を書くときによく聴いていた曲、
ケイシー・ストラットンの「Midwinter」です。皆さんも是非BGMにどうぞ▼
注)この作品を一部でも引用・転載する場合は、必ず「悠冴紀作『氷の道標』より」と明記してください。自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たります!!