
悠冴紀のコトバの欠片

2012年12月初版第一刷発行の社会派ミステリー小説『PHASE(フェーズ)』の内容紹介ページです。
(※ 後に刊行したスピンオフ小説『JADE~表象のかなたに~』や『翡翠の神話』の本編に当たる作品。)
🎥 PHASEシリーズのPVは こちら(YouTube動画)
内容紹介
失踪した弟を捜して、独自に調べを入れはじめた姉の絵梨は、相転移計画と呼ばれる あるカルト教団の目論見を知るが、事件に深く関わりを持つ謎の男『J』との接触により、やがて予想だにしなかった熾烈な攻防戦に巻き込まれてく。
「俺みたいな奴が出てくるのは、他のあらゆる平和的手段が失敗に終わったときだと思えばいい」
「本当の怪物は、どっち──?」
推し進める者と止めようとする者、別な思惑を胸に忍び寄る者……。過去に実際に起きた宗教テロを彷彿とさせる 独善的な破壊計画をめぐり、切れ者タイプの登場人物たちがアンダーグラウンドで衝突し合う。
『クルイロ~翼~』の著者 悠冴紀が、五年の沈黙を経て自らの封印を解いた、エッジの利いたミステリー・サスペンス。
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試し読み1
教団を訴えた信者本人と見られる三十代半ばぐらいの男性が、玄関口から現れた。彼は半開きにした扉の内側から顔だけを出し、まずは周りを見回していた。それから静かにゆっくりと扉を閉め、人気のない路地を東に向かって歩き出した。
教団に反旗をひるがえした立場柄、身の危険を感じて疑心暗鬼になっているのかもしれない。
自分に想像できる範囲でそんな風に察して、絵梨は、どう声をかけたらいいか考え巡らせながら、彼のあとをつけていった。
信者は一度近くの公衆電話に立ち寄り、何枚か電話帳のページを繰ったあと、すぐにまた歩き出して、あるマンションの駐車場にやってき……
試し読み2
「ねえ、そもそも相転移って、どういう意味なの?」
「物理学用語さ。本来はな」彼が答えた。
「書いて字の通り、物質の相(=PHASE)が別の相に変化することを表現した言葉だ。最も身近でわかりやすい例は、H²Oの変化だな。水が冷えて氷になったり、蒸発して水蒸気になったりするだろう?」
それなら理解できる、と絵梨は相槌を打ちながら聞いていた。
(中略)
「温めると水蒸気になることからわかるように、H²Oは気体のときが最も高エネルギーなんだが、そうやって熱エネルギーに満たされている間は、水分子がバラバラで不安定だ。逆に水分子が秩序だっていて有形のときには、熱エネルギーは損なわれていて冷たい」……
試し読み3
すっかり調査に行き詰ってしまった新見探偵は、今日も進展のない状況に溜め息をつきながら改札を抜け、帰途に就いた。終電ぎりぎりで帰ってきただけあって、駅を離れて少し歩くと、みるみる人気のない夜の静寂が押し寄せてきた。
街の寝息とも言えるそんな静けさに一日の終わりを実感しながら、細い路地裏に踏み入ったときだった。彼は突然、身体に違和感を覚えて身動きが取れなくなった。掴まれた左肩とひねられた右腕の痛みを自覚し、背後の存在に気がついたのは、数秒あとのことだった。
「新見探偵、ですね?」
背中越しに相手が語り掛けてきた。二十代ぐらいと思われる若い男の声だ。
「だ、誰だ!? 何のマネだ!」
新見はどうにか腕を振り払おうと……
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