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  • 悠冴紀

カバー・デザインの工程~PHASE篇


今回はカバー・デザインの工程についての裏話第二段、 2012年12月に出版した社会派ミステリー小説PHASE(フェーズ)です。 (⇒以前書いた裏話、カバーデザインの工程 第一弾~クルイロ篇こちら さて、まずは下の画像をご覧ください▼

小説PHASEの初期のカバーデザイン(著者自身で作成したバージョン)

これは、出版社に送る前に、著者である私が知人友人向けに手渡しで読んでもらっていた元原稿のPHASEに、私が自分なりにデザインして添付していた表紙です。(ちなみに当時は、「PHASE」のルビをフェーズではなくフェイズと表記していました。日本語で読みを表記すること自体、本来は不自然・不正確なことなので、別にどっちでもいいんですけどね A^_^;)) このデザインのポイントは、都会的でメタリックで立体感があり、同じ一枚・一場面の風景写真でありながら、色んな角度、色んな質感で表現していることです。PHASEの内容やテーマ性を、それなりに凝縮して表現できていたかな、と思います。 そしてこちらが背表紙 ▼

小説 PHASE のカバーデザイン裏 ~ 著者自身によるバージョン

全体には、ホラー小説のような怪しげな冒頭に始まり、物騒な展開をしていくミステリー・サスペンス路線の物語ですが、最後には開放感のある描写が待っているので、表のカバーデザインから見て取れるような、非日常的な刺激に満ち溢れた物語のダークな世界観から、馴染みのある平穏な日常へと心地よく解き放たれて、数多の嘘や暗示、欺瞞によって謎を成していた色んな問題をフェーズ・アウトしていく感じを表現したかったのです。背後に散りばめた壮大な地下哲学が持つ 独特のスケール感を保ったまま。 ではここで、実際に本として出版されたPHASEのデザインをご覧ください ▼

小説「PHASE」の出版社公式バージョンのカバーデザイン
小説「PHASE(悠冴紀著)」のカバーデザイン裏(完成形)
 

どうやってこのデザインになったのか、と言いますと・・・・・・、

メモ書きのカバーデザイン案

校正作業を終える頃になってハッと私の脳裏に閃いたビジョンが、← 左の絵のような光景です。 恥ずかしながら、手近にあったメモ用紙にザッと描き留めた乱雑なスケッチなので、見苦しい仕上がりなのはご了承ください <(_ _)>(笑)

当初はこうしてブログ上で公開することなど想像もしていなかったし、とりあえず担当のデザイナーさんに凡そのイメージとレイアウトさえ伝わればそれでいい、という思いだったので、適当~に書き殴ってしまいました。(← せめて、いつにも増して稚拙でアンバランスな文字の部分だけでも消してから公開しようかとも思ったのですが、面倒くさいのでそのままUP…… A^_^;9) 返す返すも、お見苦しい絵で申し訳ございません m(_ _)m さて、私の専門はコトバであって絵ではないので、開き直って説明しますが(笑)、このスケッチの中で、上下を斜めにぶった切って隔てているものは、波のイメージです。勢いよく押し寄せてきて、飛沫があがっている波打ち際、……のつもりで描きました f^_^; 『PHASE』と題した本作では、比喩表現として度々H2O(← 水)の相転移(phase transition)の話が出てくるので、表現可能であれば、波打ち際の先端の方で、水滴の一部が氷や霧に変化していくような質感も出してほしい、とか何とか、デザイナーさんに無茶な注文をつけた憶えがあります A^_^; で、そうやって勢いを感じさせる動的な波の画像で、本のデザインを真っ二つに分断しつつ、上下どちらかを夜の画像に、もう一方を昼間の街並み画像にして、物語の二面性を表現してください、と伝えました。その上で、もし夜の画像を、見る側に圧迫感を与えるような近距離撮影の路地裏画像などにするのなら、昼間の街並みの方は、距離をおいて遠くから撮影したような開放感のある画像にするなどして抑揚を持たせ、平坦な印象を与えないよう遠近感を出してください、といった注文もつけておきました。 著作権に問題のない最適画像を見つけてくること自体 難しいので、なかなかイメージ通りにはなりませんでしたが、波で上下のデザインを二分化する案は通してもらえたので、まあ好しとしましょう A^_^;) イラストではなく写真でお願いします、と言っておいたので、違和感のないよう加工するには限界があったと思いますしね 💦 デザイナーさん、ご苦労さまです!(。-人-。)

イラスト:悠冴紀
イラスト&加工:悠冴紀
 

お次は裏側のカバーデザインについてですが、まずは上の2枚の画像▲をご覧ください。向かって左側のブルーの絵は、実は この私めが中高生時代に美術の授業で描いた1作で、野の草を影絵風にシルエットだけで表現したシンプルな水彩画です。これを色反転させたりひっくり返したりして、あれこれ適当に加工するうちに仕上がったのが、右側の赤い絵です。私はこれを、知人友人向けに作成していた元原稿のPHASEの中に、挿絵として印刷していました。こうやって加工してしまえば、何やら流血のイメージに結び付いて、怪しげで迫力のある(ミステリー・サスペンス向きな)挿絵になるな、と思ったものでA^_^;) しかーしっ!!

私の伝え方がまずかったのか、私の絵自体がまずかったのか、

最初に出版社から送られてきた仮仕上がりのカバーは、以下▼のようなデザインでした。

小説『PHASE』のカバーデザイン(仮仕上がりの段階)
小説『PHASE』のカバーデザイン表(仮仕上がり)
 

ご覧の通り、タイトルに辛うじて薄っすらとグリーンの色がついている以外には、完全モノクロ仕上がりで、背表紙にいたっては、、私がかつて描いた素朴な草の絵が、そのまま小さく印刷されています。この背表紙のままでは、あまりに素朴すぎて物語のイメージに沿わないというか、都会的でスケール感や鋭さやメタリックな質感があって……という私の当初のデザイン案とは正反対! さすがにこれはマズイなと思い、私は慌てて修正を求めました。

「私の素人絵のオリジナルの形状を尊重する必要は 全くないので、物語のイメージの方を優先して、いっそ枠からはみ出すくらいにまで拡大し、あえて草の絵だとわからないようにしてください。葉っぱの部分や根っこの部分が 帯やバーコードに隠れて、茎の部分だけが見えるようにすれば、一目に何の絵かはわからないけど、何となく流れを感じさせる謎の筋と映って、ミステリー路線の本作にはちょうどいい仕上がりになると思います。あと、できれば草のシルエット全体を濃い赤で縁取って、インパクトをつけてください。元はと言えば、流血のイメージを狙ってこの絵を使用していたくらいですから」等々、うるさく指示を出しまくったのでした σ(^▽^;) 表のデザインにしても、担当のデザイナーさんとしては、おそらく「Simple is best」 の発想で、あえて白黒で決める方が、男っぽくスタイリッシュに仕上がって カッコいいのでは…、という思いだったのかもしれませんが、これではあまりにシンプルすぎるというか、あまりにもハードボイルド一色で ノワール系小説のような装いになり、読み手に誤解を与えるのではないか、と不安を抱かずにはいられませんでしたw 確かに本作は、裏社会の住人が複数登場してくる犯罪ものではあるけれど、倫理的問いかけを一切排除し、単に生き残りをかけてドンパチし合うだけの話でもなければ、端から白黒明白な区別で、退治する側と退治される側との攻防戦を描いただけの話、というわけでもありません。むしろそういった既成の概念や よくある構図に疑問を投げかけつつ、何かを覆したり抉り出したりしていく哲学的な側面をあわせ持つ物語です。 なので、デザイナーさんにはこんな風に言っておきました ⇒「確かに私は『全体にあまりカラフルにならないよう、色温度の低いニヒルな感じにしてください』とは言いましたが、白黒はやりすぎです。派手にならない程度に、多少は色味をつけてください。特に、一部ディテールが消えるほど真っ黒になっている夜の画像(波の絵の上半分)の方を。そもそも、夜景なら元から比較的にカラーレスなものなので、そんなに色を抑えようとしなくても大丈夫だと思います」と。

ミステリー系(インテリジェンス系)小説『PHASE(悠冴紀著)』のチラシ

── そんなこんなで出来上がったのが、今実際に世に出回っているPHASEです▲

ところどころ色づいているけれど、全体にはグレーベースの仕上がりなので、いい具合にメタリックな印象が出て良かったんじゃないかな、と思います 👌 ただ、本が世に出るより前に私の元原稿を読んだことのある友人の目線では、時事問題系のノンフィクションみたいだという意見もあり、ちょっと普通っぽくなってしまった感は否めませんw 漫画っぽい仕上がりだけは避けたいと思ったので、最初にデザイナーさんに「イラストではなく写真にしてください」と言ったのが、そもそもの問題だったかもしれません。最近は、グラフィック・デザインなどで、写真と見紛うほどリアルな質感を出すことが可能だし、実際にそれで創意工夫を感じられる凝ったデザインに仕上げてある本を、よく見かけます。なので私も、写真のリアリティにこだわりすぎず、まずは自分の思い描いているイメージだけを伝え、それをイラストで表現するか写真の方が適しているかの判断は、デザイナーさんに任せるべきだったかもしれない……というところが、少しばかり心残りです 💀 でもまあ、人によっては「そうかな? このデザインでちょうどいいと思ったけど?」と気に入ってくれている人もいるし、一概に良し悪しは語れません。あとはもう、読み手それぞれの受け取り方次第ですね A^_^;) う~ん、言葉のみで表現してきたものを、一目に内容や雰囲気が伝わるよう視覚的に表現する、というのは、難しいものですね。でもやっぱり、それを考える時間は素直に楽しく、やり甲斐があります (^^♪ またしても、本づくりを通して いい体験をさせてもらいました、ハイ \(^_^)/

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