終わりのない夢
- 悠冴紀
- 2016年4月10日
- 読了時間: 2分
おじさんは星を見るのが好きだった 夜が来るといつも 星たちに微笑みかけていた 陽の光が優しく注がれる初春の午前 斜め前の家の中 おじさんは夢の世界から抜け出せなくなっていた 発見したのは 訪ねてきたおじさんの弟 窓ガラスを割って家の中へ 「兄貴! 兄貴!」 何度呼んでも返事はない 沈黙、頼りない足取り、寂しい背中、涙・・・・・・ こんなに陽の溢れる美しい日に おじさんは逝ってしまった 桜の花も見ないまま おじさんは星を見るのが好きだった 空の星たちに「また明日」と告げたあと 四角い家にたった一人 いつものように布団に入り 二度とは開かない扉の向こう側へと消え去った どんな夢を見ていたのだろう 星の好きなあのおじさんは 一体誰が想像しただろう 予告もなく 前触れもなく 終わりのない夢が訪れようとは こんなに陽の溢れる美しい日に おじさんは 桜の花を見ないまま 逝ってしまった 今日の星たちに会わないまま 逝ってしまった


※1994年(17歳当時)の作品。 この詩は、私がまだ兵庫の田舎にいた高校生のときに、実際に目撃したことをそのまま生々しく描写した一作です。つい前日まで、いつも通りに夜空を眺めて一服する姿を見かけていた近所のおじさんの突然の死と、その家族の反応は、鮮明に記憶に焼き付いています。最近の作品に比べると表現が青臭く文学性と呼べるようなものは全然ありませんが、その分、ダイレクトに当時の衝撃が伝わる一作でもあると思います。 ここ数日の雨で、桜が殆ど散ってしまった今アップするのも天邪鬼なタイミングかもしれませんが、一人の人間の死を扱った作品なので、大勢がほろ酔い気分で花見を楽しむ行楽シーズン真っ只中よりも、ちょうど今ぐらいの、桜の花が儚く散っていく時期の方がいいかなと思いまして……A^_^;)
注)この作品を一部でも引用・転載する場合は、必ず「悠冴紀作『終わりのない夢』より」と明記してください。自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たります!
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