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  • 悠冴紀

巡礼~廃墟の蛍


荒野から荒野へ 廃墟から廃墟へ 誰も訪れなくなった場所を訪れ 乾いた風景を眺め歩く そこはかつて川のあった場所 あとから塗り込められた灰色のコンクリートも 今は朽ち果て さながら墓地の佇まい 川辺を舞っていたあの蛍たちは 一体どこへ消えたのか・・・ 二度とは戻らぬ夏の灯火 彼等の水は枯れてしまった 草木も水も 今はない 私はここに 嘆きに来たのか? いや、心は至って穏やかだ 誰もいない寂れた場所に惹かれては 何かの跡地をなぞって歩く 跡地から跡地へ 枯れ地から枯れ地へと・・・ 何かが失われた気はしない 巡り来ては 過ぎ去っていく 事物の移ろいとはそういうもの 潤いも乾きも 同じこと 隆盛も凋落も 同じ場所にある 生命の残り香に惹かれては 死地を訪れ 跡をなぞる ここはあの蛍たちの輝いた最後の地 多くを刻んだ水の都跡 去りしもののため静かに歌い 私は独り 余韻を愉しむ 追悼ではない これは巡礼 今や唯一の安らぎだ

Fire Fly

※2013年6月の作品。 『巡礼』というと、どことなく宗教臭い感じがするかもしれませんが、本作における私にとっての「聖地」は、生命が各々の歴史を刻んだあとの見放された大地、すっかり荒廃してしまった寂れた「跡地」です。  栄華を極めて賑わっているときよりも、神さびた印象のある「跡地」と化してから訪れる方が、ほっと寛げて、むしろ満たされた気分になるのは私だけでしょうか?A^_^;) ただ年月を経て古くなった場所というだけではなく、手入れされずに放置されて、人っ子ひとり寄りつかなくなった寂れた場所であればあるほど惹かれてしまいます。  死して尚、遠い過去から光を届かせる星々のように、川べりの大気に光を散りばめる蛍たちは、乾いた荒野に生命の軌跡を伝える過去の栄華の象徴として、跡地を訪れる私の脳裏で 仄かな輝きを保ち続けることでしょう。

注)私の作品を一部でも引用・転載する場合は、必ず『悠冴紀作』と明記してください。   自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たります m(_ _)m


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