帰りたい あの場所へ すべてを置き捨てて 帰りたい エメラルドグリーンの湖と 歴史を物語る鮮やかな地層 透明な風と 深緑の針葉樹 生まれて初めて 憎しみを忘れた 生まれて初めて 疑いを忘れた 帰りたい カナダへ 人間が綺麗に生きられる場所など 存在しないと思っていた 浄化などさせられたら 私そのものが消えてしまうと思っていた 帰る場所など要らない そう思っていた 私は一度終わった だから始められる あの地を原点に 帰りたい あの場所へ 葡萄畑を駆け回り 大地の温もりを感じたい あの開けた青空の下 メープルの香りに酔いしれたい 新設の道はあの地に始まり あの地に帰する 帰りたい あの場所へ
逃げるためではない 生きるために 帰りたい カナダへ──
※1999年(22歳当時)の詩作品。
大学三回生のとき、私はカナダ横断旅行に行ってきました。西の玄関口バンクーバーから入ってアルバータ州へ抜け、最後にトロントを訪れてきました。
留学やワーキングホリデーではなく単なる観光旅行で、僅か10日程度の滞在だったのですが、気持ちの上では離れられない場所となり、今も瞼の裏に鮮やかに焼きついています。自分の生まれ育った場所とはまるで違う異国の地でありながら、不思議な郷愁で私の心を射抜き、「また行きたい」ではなく「帰りたい」という気にさせてくれたのです。
当時の私は、人の世のゴタゴタで身の回りにトラブルが絶えず、気持ちの上でトゲトゲしていた時期だったので、タイミングの問題もあったと思います。元々のニヒルな性格に加えて、狭~い世界で泥臭~い思いにさせられていたところに、不意に大自然の美や壮大さに触れて心揺さぶられ、一気に視野が開けたような感じというか何というか。。。
なので、作中の『人間が綺麗に生きられる場所』というのも、必ずしも一つの国を、一部しか見ていないのに美化しまくった結果の発言、というのではなく、国境をも越える大自然を前にした瞬間に感じた、洗われるような感覚を振り返ることで 思わず出てきた一節と言えるでしょう。
そのあたりの心境、状況が、ちょうど最近のそれと重なるところがあったので、ふと思い出してこの詩を引っ張り出してきました。
── それにしても、非公開のお蔵入り作品を含め、この時期(大学生頃)の私の文芸作品には、「一度終わった」とか「無に帰った」とかいう表現がよく出てくるな~と、我ながら苦笑してしまいます f^_^;) あの頃 失ったもの(崩れ去ったもの)と言えば、大半が、あくまで自己満足の範囲内で重要だと信じていた旧い主義思想や、持ち前の黒い哲学に根差す負のパワーといったものであって、自分の外側にある本当に大事なものはまだ失っていなかったのだから、現在の私に言わせれば、「喪失」について語る資格もないほど青かったな…というのが正直なところなんですが……💧 まあ、あの頃はまだ若くて無知だった……ということで ( ̄▽ ̄;)💦 ←勝手なときだけ年齢でごまかす(笑)
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