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  • 悠冴紀

🎥「善き人のためのソナタ」


本日は久々に映画談です。 少々ネタバレになる話題もありますが、ご了承ください m(_ _)m まずはドイツ映画 善き人のためのソナタから。

ドイツ映画「善き人のためのソナタ」

ベルリンの壁が崩壊して尚、癒えない傷と重い闇を人々の中に残していった監視国家の悪夢。この物語は、そこに暮らした芸術家たちの悲劇に焦点を当てつつも、同時に、監視する側の苦悩や葛藤をも、繊細に丁寧に描ききっています。 舞台は東西冷戦下の東ベルリン。モンスター化した国家のシステムは、追従しない一部の者たちだけでなく、時に、進んでそこに組み込まれ、忠誠を誓った志願の追従者たちをも苦しめ、引き裂き、大いなる矛盾の犠牲者にする。 そんな中、俳優ウルリッヒ・ミューエ氏の演じるヴィースラー大尉(シュタージ)が、冷徹なシステムの一部としての乾いた観点から、やがて自身が不利益を被ってでも人として恥じない行動に出ようとする崇高な人間性へと目覚めていく、まさにそのターニング・ポイントを示す象徴として、「この曲を本気で聴いたら悪人にはなれない」と謳われたベートーベンのソナタが用いられています。芸術が持つ倫理的な役割を通し、同じ一人の登場人物をして、人々の尊厳を踏みにじる権力の手先としての顔、そして いつからか立場を転じながらも、真意を押し隠した陰の守護者としての顔、という対極の顔を持たせた手法は、類似のテーマを扱う他のどの作品とも一線を画している。 東西分断時代を身を持って経験してきた傷心の人々の 切なる願いと、

人間存在への希望がそっと込められたかのような最後の展開は、涙なしには観られません。 役者であるミューエ氏自身も 実際に類似の経験を持つためか、内側に秘めた破裂しそうなほど数多の感情を、表向きには抑えに抑えた切迫感のある静けさの中で、非常に細やかな眼差しの変化、微かな震え一つで演じ切るリアリティは、もはや演技の域を超えていて、圧巻でした。いかにもドイツらしい地味で地道で抑制の利いた描写の中に、切々と散りばめられた感情の機微が、押し寄せる波のような圧倒的な力をともなって、魂の深遠に伝わってくるのです。 どんなに動的で起伏に富んだ迫真の演技よりも説得力のある、ミューエ氏の沈黙の演技は、真意を顕わにできない状況下において、感情を押し隠して生きてきた当事者たちの苦悩や秘めたる思いを 見事に代弁していて、見ていて胸が詰まります。そしてやがて、狂気の時代における良心の目覚めへの代償として、多くを失い、すべてが反転し、時を隔てて「ただの人」となった彼ヴィースラー大尉が、失ったすべてに優る一つの気づきによって、ホッと表情を和らげる瞬間、あまりに自然に溢れ出し、波紋のように広がっていったその静かで穏やかな笑みは、観る者すべてを 見えざる腕で優しく包み込むと同時に、類似の体験を持つ現実世界の人々の心をも解き放とうとするかのように、物語を詩的に締めくくっています。肩書も地位も後ろ盾もない、一見淋しげで敗者の肖像のような彼の背中こそが、実は誰よりも気高い精神を見いだし、行動で示してきたからこそ辿り着くことのできた、幸福観に満ち溢れた勝者の背中であることを、後に残された余韻深い静寂でひしと伝えて──。 これほど高尚な作品には 後にも先にも巡り合えないと思うほどの、

一生ものの名作の一つでした。私は思わず、ブルーレイを購入してしまいましたよ f^_^; やっぱり本当に気に入った作品は、永久保存版として手元に置いておきたいですからね♪

映画「ソフィーの選択」 メリル・ストリープ&ケビン・クライン主演

※ちなみに、この映画を気に入った人には、ウィリアム・スタイロン原作の映画 ソフィーの選択もオススメします(㊟『ソフィーの世界』とは別物です!)👉

ホロコーストの陰惨な歴史を踏まえつつも、個性の強い登場人物たちが魅力的に描かれた、文学的で奥ゆきのある、深く考えさせられる映画です。

私の中では、先に紹介した『善き人のためのソナタ』と並んで、これまでに観てきたすべての映画という映画の中で、最も泣けた不朽の名作の一つ。つまり今回のこのレビューは、私にとってのTop2を挙げての最重要レビューなのです ●~* それも Top3 以下の他の作品群とは、評価において間にかなりの開きがあります!!

(㊟ もちろん、私自身の人生の中に、これらの作品に通じる共通の問題やテーマがあるために、思い入れ深い作品として鮮烈に記憶に焼き付いた、という側面もあるでしょうから、逆に経験上、個人的には共感のしどころが全く見いだせず、「異なる時代の他所の国ならではの問題で、あくまで他人事w」という見方しかできない人には、最後まで観ても一体何がいいのだかわからなかった、なんていうことも、あるかもしれませんが…… A^_^;)

音楽でも映画でも小説でも、マイベストと言えるお気に入り作品というのは、自分自身の変化・成長に合わせて、その時どきで少しずつ異なってくるものですが、「一番好きな映画は?」と訊かれたとき、私が真っ先に思い浮かべるのは、ここ20年近くもの間( 👈 つまりこの作品の存在を知って以来ずっと)、変わらずこの映画『ソフィーの選択』です。そこに『善き人のためのソナタ』が加わって、Top2となりました 💖 ただし、ムードを盛り上げるための効果音やBGM、派手なアクションなどの演出は皆無に近い作品なので、展開自体に起伏はあっても、娯楽的な要素は極めて薄く、その上、主人公ソフィーの過去の記憶が明かされるモノクロの回想シーンにいたっては、あまりにリアルすぎて 映画とは思えないしんどさが付きまといます・・・ 💦 また、そこらの軽~い作品群とは違って、最後の最後まで「救い」と呼べるようなものが見当たらない一作でもあるので、人によっては「重すぎてムリ (;一_一) 観ていて絶望的な気分になる」と目を背けてしまうかもしれませんw (☝ 私のようなドシビア人間なら、夢見心地なところが全くないその現実臭さにこそ惚れ込み、共感し、これでこそ人生!! これぞ本物の作品だ!!と、むしろ 恐れ怖じなく負の寓話を表現し尽くした制作者一同の孤高の姿勢に、敬服してしまいますけどね A^_^;)

まあ要するに、好き嫌いがかなりはっきりと分かれる濃ゆ~~い映画だということです、ハイ。(←都合のいいことや明るい側面だけ見つめて生きていけば、それでいいじゃないか、というようなことを平気で言い散らす楽天家や、夢をくれない残酷な現実を突き付けられると、「そんなひどいことが現実に起こるわけがない!」と拒絶反応を起こす人、また「私は信じたいことしか信じない! 余計な暗いものは見せないで!」と、何かの証人や表現者を罪人であるかのように責めたてる甘ちゃんタイプには、決して薦められない 覚悟の必要な一作なのです A^_^;)) その点、『善き人のためのソナタ』は、同じくらい重いテーマを扱いながらも、光なき状況の中に見る、一部の人間の良心を真の主役とした美しい仕上がりですから、誰にでも自信をもってオススメできます。DVDやブルーレイでも販売しているし、たぶんレンタルも可能だと思うので、気になる方は是非ご覧ください♪

もちろん、長年私の一番のお気に入りである『ソフィーの選択』も、

この世の不条理や残酷な側面と向き合うことの価値・意義を知っている、観る人の眼で観れば、詩的で美しく恍惚とした芸術性を持った一作だと、私は信じていますから、私のレビューを見て興味を持った方がいれば、是非こちらもご覧ください!! 私以外にも不朽の名作と認め、心酔しているファンは大勢いますよ (^_-)-☆

💡 ここで一つ、書き手の一人、表現者の一人として申し上げますが、

映画にしろ小説にしろ、真の救いは、そこに登場する人物たちが いかに都合のいい結末に向かい、笑顔でハッピーエンドを迎えるか、という小ぢんまりとしたところにあるのではなく、私たち現実世界の人間を模した 寓話の登場人物としての彼等彼女等が、時に命をかけて紡ぎ上げるストーリー全体を通して、私たちに再認識させてくれる人間尊厳の大切さや、眠っている良心への呼びかけそのものにある、と私は思っています。

その意味で、一見悲劇にしか見えない結末にさえ、救いはある。見いだせる。

それを目撃した私たちが、同じ目に合わないよう、同じようなことを繰り返さないよう、

彼等彼女等が警告のために身代わりを引き受けてくれたのだから。現実ではなく、物語の中で。

そしてそれによって涙を流すことができた私たちは、平和ボケに陥りがちな日常の中では あまり使うことのない魂の深~いところを揺さぶられ、知らず知らずのうちに、人として大事な何かを活性化させられている。

物語を通して味わう「失う悲しみ」は、現実世界において「失われてはならないもの」が何だったかを思い出し、愛着や慈しみや思いやりを深めるための気付け薬。物語における罪や過ちのシミュレーション(ディストピアの描写)は、現実世界が二の舞を踏まないための親切な警鐘。そして物語における不可抗力な不条理は、現実世界において、個人の権利を踏みにじりがちな 社会や組織といった大きなものの健全性を保つことの重要性を、私たちに再認識させ、責任意識を呼び覚まさせるための苦~い良薬。

物語と現実という関係性においては、見た目にいかにも優しげなものだけが、

必ずしも私たちにとって親切で優しい存在とは限らない、ということです、ハイ (^_-)



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