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  • 悠冴紀

JANUS


JANUS像

許せないのに 想っている

恨みながら 感謝している

突き放しながら 案じている

男でも女でもない 架空の生き物のような

恋心も持たない乾いた人間だった私には

君との繋がりが 神聖だった

あまりにも

私の人格は二つに分裂してしまった

君が私を引き裂いた

信じていないのに 受け入れている

失望したはずなのに 敬っている

背を向けながら 見守っている

君は私に全てを与え

やがて私から全てを奪った

私の魂は黄泉(よみ)に落ち

自らの血にまみれて這いずり回った

あんなにも野心知らずだった私が 今

高みを目指して走り続けるのは

君への復讐のためかもしれない

なのに

欲する成功は君のため

血よりも濃い結び付きでシンクロし合えた君に捧げる

究極の復讐にして 恩返し

私の人格は二つに分裂してしまった

君がいなくても輝ける姿を見せつけたいと望みながら

君の居場所が今もここにあることを示そうとしている

全力で走り 遠ざかりながら

君を目指し 近づいている

二つの顔で前と後ろを同時に見つめ

差し出した手を 背後に残し

君に向かって 走っている

矛盾が私を引き裂いた

相反する思いが二つ

何かが狂ってしまったのだ

私は 君の信頼と友愛以外に望むもののない

あんなにも無欲な人間だったのに

今は 君などの手の届かないところへ上り詰め

優越に満ちた眼で 君を冷たく見下ろしてやりたい

何かが狂ってしまったのだ

私は君の仕打ちに死地を彷徨い

あんなにも君を許さぬと誓ったはずなのに

今は 君と歩み 途切れた道を 美しく完成させようとしている

この期に及んで 人格を隔て もう一人の自分を裏切ってまで

そうだ

私の想いは愛よりも深く

存在の境界を越えて 魂に及んだ

その果てが ここにある

私の人格は真っ二つ

君がナイフで引き裂いた

赤黒い血の乾いた後に

二つの私が再生した

これは復讐か 恩返しか

私は高みを目指している

愛憎に引き裂かれ

終わりと始まりの門に立つ

相反する二つの目的で

同じ一つの場所を目指す

背中合わせの二人として──

************

※2006年(当時29歳)の作品

門や扉などの出入り口や、物事の始まりと終わりなどを司るローマ神話の神であり、前後に二つの顔を持つ双面の姿で知られるJANUS(ヤヌス)になぞえて、私がかつて無二の親友と慕った幼馴染の友人Sへの思いを綴った一作です。(ちなみにこのヤヌス神は、1月の「January」の語源でもある。2012年に出版した私のミステリー・サスペンス系小説PHASE(フェーズ)の作中にも、同じヤヌス神について触れた文面がありますが、私自身の個人的な感情に結び付けたこの詩作品とは対照的に、もっとずっと広義に客観的に、世の中や人間の二面性についての譬えとして語っていますので、こちらも是非ご覧ください 👉 名言集2 from 『PHASE』悠冴紀著

同じ親友のことを振り返って書いた関連作が他にも複数あり、それぞれ全く違ったテイストに仕上がっているので、よろしければこの機にあわせてご覧ください▼

●『氷の道標

●『

●『

●『幽 霊

●『SPHINX

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