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悠冴紀

詩『私の中のラグナロク』


貴女は私のすべてだった

過去の私にとってのすべて

家族愛に恵まれなかった私の 家族代理

導く者を得なかった私の 教育者代理

欠落の多い私の半身を担う 自己代理

すべてを共有できた 絶対の親友

貴女一人いれば 他には誰も要らなかった

〝貴女に愛される人間〟を目指し 生まれ変わることで

自分を愛せるようになった

〝貴女に認められる作品創り〟を目指し 文字を綴ることで

物書きになれた

疎まれ 誹られ 虐げられて

自分を無能の落伍者だと思い込んでいた私の中に

創作家としてのもう一つの命を見出だし 発掘した貴女

師となり 愛読者となり 半身となり

私の作品たちの片親であり続けてくれた

貴女の喪失によって

私は私自身を喪失した

私の中のラグナロク

哲学の風は 秩序を忘れ

誇りの木々は ことごとく倒れ

信念の海は 混沌を極め

感情の銀河は 真空に……

そして一つの覚りに至る

愛なしに生きてきたと思っていた私が

貴女への友愛一つで 生き抜いていたこと

こんなにも貴女によって 生かされていたこと

貴女の喪失

永遠と信じた友愛の行き着いた まさかの終幕

私の中のラグナロク

残酷すぎる真実が

貴女を壊してしまったのだ

見えすぎる眼を得た者ならではの

あれは不可避な末路だった

私は永久に追放された

永遠に共にあると信じたその人生から

私は貴女を失った

私は私を失った

帰るべき故郷が消失した

貴女という自己の半身と二人きりの

安全で 幸福で 奥深い

時間の進まない閉ざされた心の里が

だから私は歩み出した

帰れない私には今

進むべき未来しかない

私の中のラグナロク

永遠に続くと思われた夜

歩みの果ての結末と見えた闇

二度とは立ち上がれないと思っていた

二度とは生きたくないと思っていた

貴女との長い日々が

その地獄のような喪失が

プロローグだとは思わなかった

かつて貴女一人だけに注いできた 情という情

かつて貴女一人だけのために綴ってきた 言葉という言葉

最大の出力先を失って

視界の外側にいた大勢に 放たれていく

出会う人 出会う人に 振り分けられていく

かつてすべてだった光を失うことで

一生付きまとうと思われた重い闇までもが消え

私はやっと本当の意味で解き放たれた

何という皮肉…

何という代償…

求め続けた精神の自由

探し続けた本物の私

最も失いたくなかった最良の友を犠牲に

私は更新された

さようなら 旧い友

さようなら 旧い私

二人で一つの〝半分人間〟からの卒業

欠けていない視界に広がる 新たなる世界

欠けていない自分として描く 新たなる道

失ったすべてに劣らぬ現在(いま)

私の世界を更新した

これが私のラグナロク

※ 2004年(当時27歳)のときの作品。

タイトルにもなっている「ラグナロク(Ragnarok)」とは、北欧神話における世界の終焉のことで、『神々の黄昏』とも訳される。神話についての解説は、以前UPした関連作天狼~ハティの解説文を参照してください。私なりに、わかりやすく端的にまとめてあります。

ところで、作中の「貴女」というのは、これまでにも度々私の詩作品に登場してきた幼馴染の(元)親友Sのことです。この親友のことを作品にする度、決まって男目線の失恋の詩だと勘違いされるのですが、もちろんそういう話ではありませんよw 若き日の特異な(共依存関係とも言える)友愛の話です (-_-;) 過去にこのブログ上でUPした関連作は以下の通り▼

●『親友

●『

●『

●『幽霊

●『氷の道標

●『SPHINX

●『JANUS

注)この作品を一部でも引用・転載する場合は、

  必ず「悠冴紀作『私の中のラグナロク』より」と明記してください。

  自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たります!!

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